愛すべきエンスーたち

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エンスーとは


Iエンスー vol.48 あなたはGをかんじますか

 先日実家を訪れた時、隣接する兄A氏の駐車場になにげなく目をやりぎょっとした。

 氏の愛車である国産ライトウエイトスポーツカーの車内になにやら円盤状の物体が設置してあったのだ。
 あんまり見てはいけないもののような気がしてその場を通り過ぎた。

 後日、思いきってアレは何かと尋ねてみた。

 「ああ、あれね。
  ガソリンスタンドのお兄ちゃんも見て見ぬふりしたけれども。

 ・・・あれはおそるべきものだよ。
  その名も“ジーボウル”!」

 ジーボール??

 「ボールじゃない。G-BOWL」

 説明しよう。その物体は円盤状の皿のようなもので、星座早見盤を仰向けにした感じ。その内側には中心から同心円状にダーツの的のような区分があり、0.2G、0.3G、0.4Gと書かれている。Gとは、そう、万有引力定数のことである。

 この“ボウル”のくぼみに「球」を入れて使用する。(ピンポン球あるいはゴルフの練習球)運転中、くぼみの中で球はごろんごろん動く。ごろんごろん動くのは、車にかかるGを表している。発進時は後方に、ブレーキ踏めば前方に、右にカーブを曲がれば左に、左にカーブを曲がれば右に、球は動く。そしてそのGの加重が大きければ・・・球はくぼみの縁からこぼれ出てしまう。(こぼれても安心球を受け止める外ミゾつき)

 なるほど。仕組みはわかった。
 問題はそれがなぜ兄の車に搭載されているかだ。

 「国政久郎という名ドライバーがいてね。
 全日本ダートトライアル選手権でも何度も総合優勝してて、“サスペンションの神様”と呼ばれている。いわば日本のPF先生(ポール・フレール氏。エンスーは氏を敬愛してこう呼ぶ)だよね。
 彼は運転が上手になることをどう教えたらいいのかと考えていた。
 サーキットをぶっとばしたら上手くなったような気がするけどそれはちがう。
 上手な運転とは、丁寧な操作とコントロールにある。
 それはつまりGのコントロール。
 Gを語らずして自動車のドライビングテクニックは語れない。
 さてそれを体得するにはいかにすべきか。
 そして開発されたのがこのG-BOWLなのだ」

 小ロット限定生産、しかも氏のサイン入りという激レアなそのG-BOWLは、エンスーたちの熱意と執念と人手を介し、兄A氏のダッシュボードにたどり着いたのであった。

 なるほど。これは究極の運転技術向上マシーンである。
 運転中いかに“ボウル”の中に球を保持できるか。
  0.4Gを超えると球がこぼれてゲームオーバー。
 このボウルから一寸たりともこぼさないようになれば、「大リーグボール養成ギプス」さながら、もはやドライビングコントロールは完璧と言える。

 で、0.4Gってどのくらいのもんなのか。

 開発者の国政久郎氏は、その使用方法をイメージしてもらいやすくするために、使用例を動画でアップされている。「G-BOWL」で動画検索すると見ることができる。

 「見てみて、すごいから。
 まるで、国政さんに家庭教師してもらってるみたい♡」

 「ワインディング編」や「首都高篇」、ハンドリングやブレーキングによるその“ボウル”の中の球の動きを目の当たりにして驚く。

 Gの立ち上がり方、収まり方、ハンドリングにあわせて向かうGの方向、強弱、それらをすべてアクセル、ブレーキ、その使い方でコントロールしているのだ。
 決してゆっくり走っているわけではない。下り坂のワインディングでは、ちょっとでも直線と見るとかなりアクセルを踏み込んでいるエンジン音が響く。フロントガラス越しに見える景色もけっこう速い。それなのに“ボウル”の中の球はおそるべき静けさで、ゆっくりと、ボウルの縁をなめるように動くだけなのだ。

 停車のたびに助手席のカバンの中身をフロアマットにぶちまけてる私なんか、ボウルの中に球がとどまることは決してないのではないかと思われる。

 しかし、この0.4Gという数字は一体なんの根拠があるものなのだろうか。

 「サスペンションを中心に毎日がまわっている、国政久郎のブログ」を拝読するとその理由がよくわかる。
『F−1ドライバーは、Gコントロールの達人』であり、コーナリングなどではGの上限がタイヤグリップの限界で、コース上のラインに留まることができる限界なのだそうだ。つまり、そのGの上限ギリギリを行きタイムを削るその精度の高さがドライバーの速さなのだ。
でもって
『F1のブレーキングはドライホソウから圧雪路に突入と同じ』なんだそうだ。
フルブレーキで舗装道路から一挙に圧雪路に突入しつつコーナリング。ブレーキを抜いてやらないと大スピンすることはなんとなくイメージできる。

 ちなみに圧雪路で出せるGはせいぜい0.4G前後なのだそうだ。
 おお、G-BOWLで球をこぼさない限界値ではないか。
 ストレートエンド、300km/hオーバーからのフルブレーキングの先に、あんな浅い“ボウル”から球をこぼさないようにする繊細なGコントロール。まさに神業。

 F1ドライバーを目指しているわけではない人も、Gコントロールは車を運転する限り必要なセンスだと国正氏は言う。
 運転が上手くなるためのトレーニング、それはつまり「安全に走る」ことを意味する。

 Gコントロールを意識すると、体中の感覚が耳を澄ますようになるのだと思う。

 シートから伝わる振動で路面の状況を感じる。
 アクセルの感じでタイヤやオイルが暖まってきたことを知る。
 自分と自分の車だけではなく、前後の車の状況、交通の流れ、近くも遠くも見てわかり、予測することで次の瞬間を自分の意志でコントロールしてゆく。

 兄A氏いわく

 「生きてるヒトに生きてる喜びを
 いちばん与えてくれるのは、アコースティックなものだと思うんだよね。
 機械に頼らない、自力の楽しさ。」

 そして

 「G-BOWLほんっっとに面白いっ!!!
 もう毎日がジムカーナ。正直思ったより難しくって奥が深いんだ!」

 と目をキラキラさせている。

※まるでわたしの作り話のようですが、このコラムはおそろしいことにすべてノンフィクションなんですよー。