
5月になると、彼女とのドライブを思い出す。
彼女はとてもおしゃれで、美味いものに目がなくて、
いつも新しい音楽を聞いていた。
「ねえ、ドライブに行こうよ」。
遠くの街の、森の中にあるパン屋に行こうという。
彼女はマニュアルミッションの車に乗っていた。
自分で車を思う通りに操るのが楽しいのだそうだ。
そして彼女は、裸足で運転していた。
ほんとうは、なんかの条例違反かもしれないし
危ないので裸足はいけないと教習所でも教えられた。
だけど、脱いだサンダルを後部座席にぽーんと投げて、
裸足でアクセルとブレーキとクラッチのペダルをさばく。
なんで裸足なの?
わかんない、もうなれちゃった。
彼女の体はちっちゃいので、座席の位置もハンドルに近い。
「気持ちがいいね!」
全部の窓を全開にして、5月の風を体中に感じながら、
彼女は、音楽にあわせて踊るように車を走らせていた。
そういえば、フランソワーズ・サガンもたしか、裸足で運転してたんじゃなかったっけ。
スピード狂で、生死にかかわる事故も起こしたんだった。
破滅的な生き方をしたその作家の、うろ覚えのイメージが彼女とだぶった。
仕事もうまくいかない。
なにがしたいのかわからない。
服を買いたいけどお金がない。
若くてまだ知恵も足らなくて
将来なんか見えなくて、
美味しいものたべて、
音楽をならして、
ただ気持ちよく車を走らせることだけが
今を忘れさせてくれた。
失うものもなにもない、
からっぽだけど、鳥のように自由だった。
5月になるといつも、あのころの私たちを思い出す。