愛すべきエンスーたち

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Iエンスー Vol.21 サーキットは踊る(後編)

兄A氏がひょんなことから申し込み参加した「サーキットでのドライビング講習会」
「トランペットに憧れる少年」さながらショーウインドウにはりついて見ていた憧れのスーパーカーでサーキット走行できる、夢のようなチャンスをモノにしたのだった。

さてかつての会員専用ラウンジでの昼食を楽しんだ後、午後のプログラムは「低μ路(ていみゅーろ)」での制動体験から始まった。

「低μ路」とは、水を撒くなどして人為的に滑りやすくしたテストロードのこと。
『低μ路から脱出時、急激なオーバーステア(スピン)をカウンターステアで回避する』
『低μ路上でスラロームからリアタイヤをスライドさせ、スキッドをコントロールしつつ前進する』
とプログラムには書いてある。なんのこっちゃ。

はい○Km/hで進入してこのパイロンでブレーキ、などというインストラクターの指示に従って人為的なスピンを体験したり、スリップ状態から立て直しをはかったりする体験らしい。

「高級車は死んでもスピンしない」
それはそれは高性能な制御システムが様々に働いて、テクニックの如何にかかわらずきちんと制動できるのだという。へー。

さて、いよいよお待ちかね、サーキット走行である。

全開だった?
「いやいや、そんなことさせないよ。そんなことしたら片っ端からクラッシュして何台あっても足らない」
スピン制御の場面でも、いかに高性能とはいえがんばりすぎて「限界まで踏む」人もけっこういたらしい。そんな人に自由走行させたらどうなるかわからない。ぞぞー。

ということで、「カルガモ方式」、つまり先導車に続いて2、3台連なって走る。
なんだー、ぶっとばせないね。
とはいえ、ストレートエンドとかでは170km/hとか180km/hとか出るんだそうだ。
ブレーキングポイントも無線で教えてもらえるので素人でも楽しめる。
インストラクターが乗った先導車は後続車をバックミラーで確認して“最も遅い車”にペースを合わせる。だから、慎重な運転のドライバーと一緒のチームになって「遅い!」とイライラするドライバーもいたそうだ。

A氏がその憧れのスーパーカーで走った時のチームはみんなけっこう速く走る人ばかりで、終了後「みなさんの車は余裕でしょうけど、先導車(スーパーカーより数クラス下)はめいっぱいでしたよ」と言われたそうだ。
1周2分ちょっと。9周ほど走ったのだそうだ。

で、どうだった?
「あ〜〜〜〜〜ほんと楽しかった!」
で、そのスーパーカー、よかった??
「あ〜〜〜〜〜、うーーーん、よかったよー・・・」

基本的にサーキットの道は広くて路面もきれい。だから、
止まった時のブレーキのタッチだとか、轍にハンドルをとられる感じとか、段差を超える時にコツンと当たる感じとか、一般道路を走らないと分からないような車のアラは感じられないんだそうだ。

「だから感想は、速いなー、すごいなー、1600kgも重量あるのに軽やかに走るなーとか。
パドルシフト(F1と同じくステアリングホイールにシフトボタンがあって手を離さずしてシフトチェンジできるのだー)だしさ、ミッドシップだから後ろからエンジン音がファーンとのびてくるしさ、あ〜〜楽しー!んだよね。ほんとよくできてる。堂々たるスーパーカーだと思ったよ。
だけど、ぜんぶ車がやってくれますよね、って話。これじゃ車の運転は上手くならない」

A氏曰く、「ぼくにとって物欲に結びつかないすごさ」だったそうだ。
「ぼくは運転が上手くなりたいんだ。そういう健全なる向上心にはアピールしなかった」

健全か?ま、健全か・・・。そういうことにしておこう。
このスーパーカーのオーナーになれば、まあお金持ちね、すごいわね、こんなの乗りこなせるなんてレーサーみたい、と思われること間違いない。でも実はちがーう。お金さえ払えば運転へたくそでもバレない高級車なのだ。そんなのかっこいいか?

「昔のポ(以下略)はそうじゃなかった」

ディーラーから自宅に帰るまでにクラッチがすり減ってた、とか、クラッチミーティングができずにディーラーの前の信号で延々立ち往生してたとか、とにかく運転するのが難しい、へたくそは乗れない高級車だったのだそうだ。だからオーナーはわざわざ乗り方を習いに行ってたし、だからそんな車に乗れると言うことは、ただお金があるだけじゃなくて技術も伴っている事実があるからこそかっこ良かったのだ。

「今のお金持ちは簡単で便利なのがいいんだよね。だからどのメーカーも必死でそういう高級車をつくってる」

それは、車だけじゃないかも。

簡単で便利で手間がかからない最先端技術は、なにを失ってきたのだろうか。

ちなみに、そのスーパーカーの他にも様々なラインナップがあり、いろんな車種を乗り比べたらしい。
どれがいちばんよかった?
「あのさー、前に言ってたじゃない?『普通がいちばん』って。まさにあれだった。
○(いちばん基本クラス)のFF。これだけちゃんとスピンしそうになったんだよね。
カウンターあてないと止まらない。一緒に乗ってた人たちもおおお〜いいね〜〜〜って。
これだけセッティングがちがって、とってもスポーティな味付けだった。軽快で好きだったね」


さてこのような大盤振る舞いの販促イベントの後、さぞやセールス攻勢が凄いんだろうと思いきや
「さっぱり連絡がないんだよね。買うつもりはないとしても、ちょっとさみしい」
複雑な胸の内のようでありました。



※まるでわたしの作り話のようですが、このコラムはおそろしいことにすべてノンフィクションなんですよー。