
後にも先にも、その車を見たのは一回だけ。
今から十数年前、妹が米国のニューヨーク州バッファローで結婚式を挙げたときのこと。挙式会場になったカールおじさんの家で目にしたオールドカー、67年式のフォード・サンダーバード。
67年式って……私と1歳違い(しかも車の方が若い!)。ピンクと白のボディの内側も外側もピッカピカに手入れされたその車の助手席に、紋付はかま姿のうちの父が、広いおでこを光らせながら乗せてもらい、ご満悦だったのを思い出す。
いつもはガレージに大切に保管されているサンダーバードを、6月の晴れた日、甥っ子(つまり、妹のムコ殿)のウエディングのお祝いにと、カールおじさんが特別に走らせてくれたのだ。
家でも築百年のアパートメントをリフォームして、平気で暮らしている米国ではDIYがとても盛ん。Do It Yourself の精神で何でも自分で作ったり、修理してしまう。その流れを汲んでか、車に対しても「オールドカー」のマニアが相当な数いて、古い車をきっちり修理・手入れして、大事に保有している。
オールドカーだけのカーショーなんかもあり、手塩にかけた(?)愛車をばっちりチューンナップ&ドレスアップして、ここぞとばかりにお披露目して盛り上がる。
オールドカーは、パーツの装備やメンテナンスに人一倍お金と時間がかかるので、それを持ち続けることはとっても贅沢なことらしい。オールドカーマニアにとって自分の愛車は、古いけどトロフィーワイフみたいなもんなのだ。
普段はガレージに仕舞ってあるが、ちょいと乗って走ろうものなら、道端の人々の注目の的。店の駐車場に停めれば、たちまち「いかした車だねぇ」「すばらしい手入れをしているね」と声をかけられる。
車好きやオールドカーマニアという“同好の士”がそこら辺にいるもんだから、道端や駐車場でたちまち車談義に花が咲く。
車が触媒になって、見知らぬ者同士が言葉を交わし、仲良くなっていく様を、米国に嫁いだ妹は、星の数ほど目撃し、車一つで気軽にコミュニケーションをとっていく彼らを「アメリカ人らしいなぁ」と眺めてきたと言う。
ん? でも、日本でも似た光景はあるのでは? お互い「車好き」と分かれば、あっというまに会話がはずみ、仲良くなるのは日本の男子たちも同じだ。
オールドカーはそれほど走ってはいないが、好きなアニメやゲームのキャラクターを車に全面展開した「痛車」の数とクオリティは米国のオールドカーを軽く凌ぐものだろう。
車をきっかけに仲良くなれる。世界の“男の子”にとって、車は完全無欠の共通言語ではないだろうか。
※この記事は実話をもとに書いたものです。