愛すべきエンスーたち

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エンスーとは


Iエンスー Vol.31 人生ドライブ

母は車の運転ができないので、いつも父の助手席に座っていた。

「もうお父さんわたしがおらんと危なっかしくて」
父も目が薄くなり感覚も鈍くなり、助手席の母が父の目や耳を補って、
「あぶない!!あ、オーライオーライ、はい行って」
とはりきって指導していたのだった。
父は「やかましいんよ。その声にびっくりするわ」と話しながらも頼りにしていて、二人のやじきた珍道中ドライブはしばらく続いたのだが、「枯れ葉マーク」をつけるまえにドライバーはあの世に行ってしまった。

なので母も助手席での務めは卒業とばかりに、わたしの車に乗る時は後部座席に乗るようになった。まあ、うるさい娘よりチャイルドシートの孫の横のほうがいいんでしょうよ。

窓の外を眺めながら、ああ、ここはお父さんと若い頃よう来たねぇとか、この辺りに誰それが住んどったとか、思い出してはしゃべっている。

「このへんにたしか○○さんが連れてってくれた美味しいお店があった思うが・・・」
え、どこどこ、どのへん?
「えーとこの先を曲がるんかいね、いやちがうね、どうじゃったかいね、忘れた」
なんじゃそら!!
母はたいがいこんな感じである。
あんだけ父と車であちこちしとろうに、ぜんっぜん土地勘がない。はなから覚えておこうという気もないし、また来ようというつもりもないからか。

しかし人のことは言えない。
つい最近自分で自分にびっくりしたのだが、迷子になったのだ。
何度か行って、ちゃんと知ってる場所なのに、だ。
あれーたしかこのへんだった。この店の角を曲がるんだった・・・ありゃりゃ!?
いやいやこんな細い道じゃなかった・・・ここはどこ?
何度も来たことあるのに。なんでー?
結局不案内な住宅地の一方通行の多さに根負けして、行くのを断念した。

だめじゃん私。なんでー??
あーそうか、ここに来るときは必ず、誰かに連れてきてもらってたんだ。

人が運転する車に気楽にのっかって、しゃべったり笑ったり、風景は眺めてはいたけどぜんぜん見ていなかったのだ。

ああ、人任せにするというのはこういうことなのだ。
楽だけど、自分がいったいどこに連れて行かれてるのか自覚できないということだ。
そして一人になってはじめて、戻れもせず行けもしない自分に気づくのだ。

話は急に大きくなるが、ちょっと前まで日本ではそれが普通だったよなーと思う。
お父さんが運転する「家庭」、社長さんが運転する「会社」、えらいひとが運転する「国家」、とにかく乗っかってれば大丈夫な車がちゃんと走っていた。

しかしこのごろ、だんだん窓の外の景色が怪しくなってきたようだ。
ちょっとー!この運転手大丈夫!?

自分が行きたいところには自力で行くように心がけたいものですな。



※まるでわたしの作り話のようですが、このコラムはおそろしいことにすべてノンフィクションなんですよー。