愛すべきエンスーたち

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エンスーとは


Iエンスー Vol.39 とろける車

 さて前回の「I♥エンスー Vol.38 威嚇社会」では、 「オーバーテイキング プレステージャス」という概念を紹介した。

 「オーバーテイキング プレステージャス」=追い越し優位性 とはつまり、フロントの表情を恐ろしげにデザインすることで、他車を威嚇し屈服させる効果を言う。高級車のみならず今や量販車にまでなにやら恐ろしげな顔つきの車が増えてきた、という話であった。

 兄A氏の話には続きがあった。

 「しかし、ポ(高級輸入車)は違ったんだ。そういう『オーバーテイキング プレステージャス』を追求する時代の流れにそって、デザインを変えたことがあった。顔つきをすらっとさせたんだよね。そうしたらもう、大不評で。すぐに元に戻したんだ」と。

 これはどういうことか。

 ポ(高級輸入車)といえばその特徴的な顔がすぐ思い浮かぶ。
 まんまるお目めにニンマリした口元、なんとなくカエルみたいなあの顔だ。
 なのにえらいすらっとさせちゃって!
 あれこそがポ(高級輸入車)のアイコンだし、らしさだし、カッコよさなんじゃん!という愛好家からのブーイングが地鳴りのように聞こえてきた、のだろうと想像する。

 それにそもそもポ(以下略)は、威嚇する必要がないのではないか。
 オーナーの興味は他車に向かわず、内に向かっているのではないか。

 ポといえば、スポーツカーの代名詞と言っても過言ではない。
 そしてそれは、普通に運転するのさえ難しい車でもある。
 ディーラー納車後、自宅までの道のりですら「無理かも」と思うくらいクセのある車だ。
 しかし、クラッチのミートポイントはどうなんだ、どうやったらシフト操作がスムーズに行くのかと、日々車と対話するごとく運転することで少しずつ分かってくる。
 その、やった!分かった!できた!すごい!という歓びがオーナーを虜にする。
 そして自在に乗りこなすことができたとき、日本の公道では決して発揮することが許されないほどの圧倒的な加速力とスピードという、そのスポーツカーの本当の実力の片鱗を垣間見ることができるのだ。
 そんな力を秘めたマシンを操ることが許されるのは、その凶暴性を自らの理性と技術でコントロールすることができる人だけだ。それがポのオーナーの自負であり誇りでもあると思う。

 話は全然変わるが、テレビで美味しいものを食べたとき、タレントやレポーターは目を剥いて感想を述べる。「おいしい!」というコメントじゃだめで、気の利いたことを言わなくてはならないらしい。その中でも、高級な牛肉とかマグロとかを口にした時に必ずといっていいほど言われるのが
「う〜ん、お口の中でとろけちゃいました!」「すーっと溶けてなくなった!」
ではなかろうか。
 高級肉=サシが入っててめちゃくちゃ柔らかい=体温で脂とけ出す=お口でとろける
 その一言で以上のような情報を察知することができる便利な感想だ。
 そうやって旨い肉=とろける肉という単純な価値観ばかりが増産されてゆく。

 じゃあサシが入ってない赤身のしっかりした肉の旨さはどうなんだ。噛んでも噛んでも口に残る白肉の天ぷらの旨さはどうなんだ。とろけるのが旨いのならとろろ昆布でも食っておれ、と思う。
 とはいえコメントはせいぜい一言二言が勝負だ。あんまり小難しいことを言えばカットだ。TVCMも15秒かせいぜい30秒。それで説明できないと駄目なんだ。

 テレビのせいだけでもなかろうが、ややこしいことにかかわり、解らない、考える、分かろうとするという過程はすっとばされるようになってきたんじゃないかと思う。

 たとえば、スポーツカーの、「スポーツ」におけるトレーニングを怠り、だけど金メダルが欲しい人がたくさんいるということだ。
 車と対話?わからない。高度なテクニック?めんどくさい。
 もっと分かりやすいものをくれ。「すごい!」の部分だけくれ。
 そういうお客様のご要望にお応えした現代のスポーツカーは、オートマティックに制御されたマシンなので高度な運転技術は必要ございません。でもって周りがへへ〜ってひれ伏す高級車=『オーバーテイキング プレステージャスてんこ盛りの車』が大歓迎されるのだ。

 それってかっこ悪いですよね、とは誰も言わない。
 王様に向かってそんなホントのこと、言えるわけないじゃないですか!

 かくして、ふんどし一丁、立派な兜をかぶった王様が公道を我が物顔で走ってゆくのであった。



 ※まるでわたしの作り話のようですが、このコラムはおそろしいことにすべてノンフィクションなんですよー。