愛すべきエンスーたち

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エンスーとは


ぶれない意志

どうしてもほしい車があった。
かれこれ4、5年、ほしい、ほしいと思い続け、街なかや路上でその車を見かけるたび、熱い視線を注いでは、ため息。新車は無理でも、中古なら買える! とコツコツ購入資金も貯めていた。
そして今年。運命の女神はその愛しい車に試乗する機会を私に与えた。
乗ったら、もうダメ。
やっぱり、ほしい! 絶対、ほしい! 何が何でもほしい! 火が付いてしまった私は、友人に紹介してもらった中古車屋さんに、希望の年式、グレード、色、各種装備まで詳細に伝え、すでに買う気モード全開。あとはわが家の財務省と交渉するのみ、という段階に。

そうなのだ。算数が超苦手な私は、結婚以来、ずっと夫に家計簿をつけてもらっている。自分の仕事の確定申告の書類作成も夫にしてもらっていて、金銭面の管理は基本的に夫主導。
そりゃ、新婚時代はまだ私も家計簿をつけていた。だが、もともと数字が苦手で雑な性格なため、毎日きちんと家計簿をつけることに早々に挫折。数字に強い夫からは「あんたに任せとったら、イライラするばっかりで、やれん。はぁええ、わしがする!」と選手交代を宣告されて十数年。
確定申告も最初は自分でしていたが、ある年、申告の仕方を失敗してから、もう自分でするのをやめ、夫に丸投げ(だって、その方が漏れもなくて、確実なんだも~ん)

そういうわけで、たとえ自分のお金で車を買うにしても、我が家ではまず、夫を説得しなければならないのだ。中古車屋さんからも「普通、ご主人が買う気満々でも、奥さんに反対されることが多いけど、お宅は逆じゃね」と笑われた。

ある晩、「実は・・・」と車のことを切り出す私。二人の間に緊張が走る。資金は準備した。試乗もした。買う先も決まった。「ね、だから買ってもいいよね?」と畳みかける私に夫は言った。
「買うのは勝手じゃが、あんたの場合、必ずどっかぶつけるで」
うぐぐ。痛いところを突かれ、たじろぐ私。現に、今乗っている車も、車検から戻ってきた直後に壁にぶつけてバンパーをへこませたのは、このわ・た・し…。

その後も私の運転テクの拙さをあれこれと挙げつらい、私を弱気にさせる戦法に出る夫。そして、極めつけは「その車買う金で、家族で何回海外行けるか考えてみんさいや」ときたもんだ。あう~っっ。
実際、私には米国在住の妹がおり、4年に1度、妹一家に会いに家族で旅行をすることが、ささやかなわが家の楽しみなのだ。

車と旅行。究極の選択を迫られた私は散々悩んだ挙句、車の購入を見送ることにした。我ながら、あっけない幕切れ。そして、思った。私の車に対する情熱って、たかだかこんなもんなんだと。

夫との一連のやり取りを中古車屋さんに話したら、ひと言「ありえん」。まったくそのとおりだ。あれだけ恋い焦がれたスポーツカーで走ることより、オフシーズンに格安チケットで行く貧乏旅行を取ってしまったんだもん。でも、それが私の現実…。

真の車好きは、買うことにも、乗ることにも決してゆるがぬ強い意志で臨むはずだ。あ~それなのに、それなのに。夫にゆさぶりをかけられ、旅行に目がくらんだ私は、「これでも、ちょっとは車好き」なんて、もう二度と言えない。


※この記事は実話をもとに書いたものです。