愛すべきエンスーたち

バックナンバー
バックナンバー一覧

エンスーとは


好きがこうじて…

車好きとは、すなわち、車を改造する人だと思っていた。
車を愛するあまり、より自分仕様にカスタマイズし、世界にたった一つの車を創りあげることに喜びを見出し、情熱を注ぐ人たちなのだと、思いこんでいた。
でも、それはシロウトの単なる思い込みであったことを知った。

世の中には、別段車好きでなくても、別の目的のために車を改造する人がいるのだ。

先日、仕事を一緒にした客先の担当者がそうだった。
彼は写真が趣味で、とりわけモノクロ写真に強いこだわりを持ち、写真展で何度も賞を受賞してきた実績の持ち主。今でこそデジタルカメラに切り替えているが、アナログカメラ歴が長く、まだ数多くのアナログカメラを所有しているのだった。

数年後に定年を迎えるその彼が遠い目をして言った。
「昔は軽四で四国や山陰へ撮影旅行に行ったもんよ」
石仏や風景を撮影するため、中・四国地方を写真仲間と車で撮影旅行していたのだと言う。その車というのが軽の箱バン。しかも、暗室付き!

箱バンの後部座席を改造して暗室を作り、撮影したフィルムをその場で現像していたと言うではないか。
「撮影したら、すぐ見てみたいけぇね~」
自分で現像するのもモノクロ写真の楽しさなのだ、と彼は言う。

でも、暗室のついた車ってすごくないか~!? 
まぁ、今でも車中でたこ焼きやドーナツを作って売っている軽四があるくらいだから、暗室付きの軽四があったとしてもおかしくはないか…。

彼は頭と手だけつっこめる簡易な暗室スペースを車中に作り、頭隠して尻隠さず状態で、でも真剣に細心の注意を払いながら現像をしていたらしい。はたから見れば、だいの大人が黒い布かぶってもぞもぞしているようにしか見えず、かなり怪しい光景だったと想像するが、本人は至福。

さらに彼は、暗室だけでは物足りず、撮影旅行に同行する仲間が横になれるように後部座席にごろ寝スペースも設置(どこまでスペースを有効活用してるんだか!)。運転席と助手席と後部座席を合わせて3人のおっさんが暗室付きの軽四に泊まり込んでいたというから、むさくるしいことこのうえないが、当の本人たちはこのうえなくハッピーだった模様。暗室付きの軽四を走らせ、中四国地方の風光明媚な景勝地をカメラ片手に嬉々としてめぐっていたのだという。趣味って、手をかけるほど楽しいからな~。

車に対する特別な愛やこだわりがなくても、撮影現場ですぐ現像したいという欲求の強さが彼を車の改造へと走らせた。ならば、本来、車が好きな男たちが自分の愛車を改造するのに、どれほどの情熱とこだわりを注ぎこむのか、そのパワーのすさまじさは計り知れない。お金かかるはずだわ~。

※この記事は実話をもとに書いたものです。